- ことばの種(STさんのつぶやき)
ちょうちょだよ!
最近知り合った、ある男の子のお話です。
ことばの理解は良好で、全体に向けて呼びかけたことも、個別の声かけもよくわかって反応してくれます。
いつもニコニコ穏やかで、大人の促しに応じたくなくてぐずっているお友だちを、そっと手を引いて「一緒にしよう」と誘ってくれることもある、頼りになるお兄さんでもあります。
私的には気立ても良く、100点満点のお子さんですが、保護者のお悩みは、発語がとても少ないことです。
このお子さん、こんなにも理解はできているのに、音声言語での意思表示がほとんどないのです。
でもね…
ある日のおやつの時間のことです。
少し離れた位置で、背を向けて立っていた私に、
「んんっ」と咳払いをして、アピールすることがありました。
「なあに?」と、振り返ると、チョイチョイと手招きをしています。
近づいてみると、パー🖐️の形に開いた両手の、親指と親指をくっつけって、ヒラヒラ🦋
お皿の上には、ちょっぴりかじったクッキーが2枚。
かじったところを中心に、蝶が羽を開いたような形に並べて置いてありました。
「見て見て!ちょうちょみたいでしょ♪」と、知らせてくれたわけです。
「わあ!ちょうちょだね。すてきだね♪」と言うと、うれしそうにニコニコ☺️
「ちょうちょ、ちょうちょ…♪」と、鼻唄で歌い出すと、周りのお友だちも覗きに来て、とっても盛り上がりましたよ。
この楽しいやりとりの間、彼は「ことば」は、一言も発していません。
ですが、離れた所にいる大人に、①「んんっ」と注意喚起をし、②手招きで「近くに来て聞いてほしい」と要求し、③ジェスチャーで内容を伝えることができています。
さらに、鼻唄を歌ったことで、「ことば」の理解が得意ではないお友だちにも、「ちょうちょだよ!楽しいよ!」ということが伝わり、素敵な時間を共有できました。
たしかに、音声言語による発信はないかもしれません。
だけど、とても豊かなコミュニケーションが成立していると思いませんか?
私は、このお子さんの、コミュニケーションのあり方は、発語の習得が難しい子ども達の、1つの理想の形だと思います。
…とはいえ、「これでいいんです。STとして何もすることはありません」なんて、言うつもりはないんですよ。
たぶん、ジェスチャーなどの代替手段が上手すぎて💦、ことばをつかわなくても、ほとんどのことが伝わってしまうのでしょう。
だから、無理をして苦手な「ことば」を発する必要性を感じずに、成長してきたのでしょうね。
私たち大人も、これほど上手に伝えられると、「お口で言って」と促す機会が少なくなりがちです。
言いたいことが伝わっていても、敢えてことばでの発信を促したり、楽しい遊びの中で、ほんの少し、短いことばやかけ声を取り入れたりすることで、もしかしたら、少しことばが出てくるかな?
それから、ことばの出づらさには、何らかの理由があるはずで。
たとえば、聞いてわかるんだけど、自分でお話しようと思うと、頭の中の引き出しから、言いたいことばを探せないとか…
言おうと思っていることばは思い浮かんでいるんだけど、お口の動きが未熟で、上手に発音できないと…
原因を探り、それぞれの抱える難しさを解消・軽減できる方法を考える必要がありそうです。
さてさて、このお子さんの場合、どのくらいのことばを引き出せるでしょうね?
現状、本人が全く困っていないので(恐らく、将来的にもそれほど困ることはなさそうなくらい、コミュニケーションの達人です)、まずは、簡単なあいさつのことばが言えることを目指してみようかな?
(今のままでも全然ダメではないのだけど、あいさつができれば、周囲の人から愛されるチャンスがもっと増えるので、本人にとって比較的負担が少なく、メリットがありますね。)
…この記事を読んで、「なるほど、やってみよう!」と思ってくださった方、もしいらしたら。
あくまでも、「本人が嫌がらない範囲で」、「楽しめることを」が、大切なポイントです!
がんばりすぎて、コミュニケーションそのものが嫌になってしまったら、その方が、長い人生にとっては残念なことです。
ことばでやりとりができれば、それはもちろん素敵なことだけれど、この「ちょうちょだよ」のエピソードのように、ことばをつかわなくても、楽しいコミュニケーション、豊かな人間関係は、ばっちり、成立するんですよ!