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  • ことばの種(STさんのつぶやき)

身体の麻痺とことば

成人の場合、「麻痺」という症状の原因として、真っ先に思い浮かぶのは脳梗塞かな…と思うのですが、皆さんはいかがでしょうか?

逆に、脳梗塞の後遺症として、最も有名な症状が「麻痺」とも言えるかもしれません。

ですが、実は、ことばの問題もまた、脳の障害と密接に関わっています。

脳梗塞が起こったら、脳の損傷部位、程度に関わらず、ごく軽微なものを含めれば、必ず何らかの失語の症状が起こると言われるほどです。

一般に、脳の左半球に言語野と呼ばれる部分があり、その左半球は身体の右側の運動や感覚を担っています。

ですから、右半身に麻痺が出た場合には、特に顕著に失語の症状が出ることが多いです。

(損傷部位、程度、それまでの言語や脳の使い方などにより、症状の出方は様々です。)

では、言語習得前のお子さんの場合はどうでしょう?

やはり、主として言語機能を担う、左半球の損傷が疑われる場合には、そうでないお子さんに比べ、言語の習得に困難さはあるように思います。

では、明らかな右麻痺があるお子さんの、言語習得は絶望的で、努力しても無駄なのかというと、決してそんなことはありません。

脳に損傷のないお子さんとは、異なる発達の過程をたどるであろうとは予想されますが、言語機能の、どの部分の問題なのかを分析することで、コミュニケーション手段の獲得を目指すことはできます。

ヒトが言語を操る際の脳の働きは、とても複雑で、その過程のどこに不具合が生じても、スムースなコミュニケーションは難しくなります。

(ご興味のある方は、「ロゴジェンモデル」と検索してみてください。認知神経心理学の考え方の1つで、言語を理解する際に、脳内で何が起こっているのか、わかりやすく説明されています。)

もしも、聞いて理解する過程に問題が起きているのなら、「聞く」以外の方法で、理解を促せば、ことばに繋がる可能性が高まりますよね。

あるいは、理解はできているけれど、言いたい語をうまく見つけることができないのなら、選択肢や絵カードを提示するなど、目的の語にたどり着く手がかりを用意してあげられれば、発語・発信に繋がるかもしれません。

(成長すれば、お口で話すことはできなくても、カードや文字でやりとりができるようになる可能性もあります)

理解できていて、頭の中では、言いたい語も見つかっているけれど、発信する際に、目的の「音」を見つけられない、作れないというケースであれば、実はかなり明確で、詳細な、言語による理解・思考が頭の中にはあるのかもしれません。

何か、頭の中の言語を外に取り出す手段を見つけることができれば、コミュニケーションは、ぐっと広がりますね。

子ども自身は、これらの、自分の頭の中で起こっていることを、私たちに説明する言語を持っていない状態なのですから、周囲の大人が、汲み取ってあげる必要があります。

普段の行動や、コミュニケーション・理解の様子を、よく観察し、分析することが、ことばへの第1歩となります。

さて、右半身に軽度の麻痺のある、Aちゃんのエピソードです。

かわいいAちゃん、人と関わることが大好きで、とってもいたずらっ子です。

今のところ、明確な発話はありません…が、私、知っているんです!

時々、Aちゃん、鏡の中の自分に向かって、何やら長文で話しかけているんです。

お口の動きにも少し制限があるので、不明瞭ではありますが、どうも「アンパンマン」という語が、ちらほら混じるような…

身ぶり手振りもついて、日本語で話すような、抑揚もついているんです。

あれは、たぶん、何かAちゃんなりの「ことば」なんじゃないかな?

この子、どうやら事前情報で聞いていたような、「全くことばを持たない子」じゃ、ないんじゃない?

そんなある時、お部屋を訪れた人が開けたドアの隙間をすり抜けて、室外にダッシュ(少し先で立ち止まって、ニコニコ☺️、追いかけてきてくれるのを待っています)しては、注意されることを繰り返していたAちゃん。

その日は、たまたま通りかかった私が、取っ捕まえた(笑)のですが、その表情を見て、思わず言ってしまいました…

「ねえねえ、あなた、本当は、ダメなのわかってるでしょう?

 それで、ボクはかわいいから、許してもらえるっていうのも、知ってるんじゃない?」

そしたら、どうなったと思いますか?

Aちゃん、急に神妙な顔になって、「うん」と頷いて、しょんぼりしました。

…あながち間違ってないけど、それは、いかん!!

もちろん、関わる職員全員にチクりましたとも(笑)

「あの子、ちゃんと理解してる!もう少し、年齢相応の行動を求めてもいいと思う!」

さてさて、それからAちゃんがどう成長していくかは、今後のお楽しみ。

ことばって、面白いですね。

ちょっとした不具合で、うまく機能しなくなってしまうけれど、工夫次第で、コミュニケーションの可能性は拡がります。

そのために、かかわる大人みんなで、協力し、愛情をもって観察、対応していきましょうね。

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